大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所 昭和32年(家)1078号 審判

国籍 アメリカ合衆国ウァージニア州 住所 福岡市

申立人 アーヴィング・エドワード・トムソン(仮名)

相手方 大林久子(仮名)

国籍 住所 申立人に同じ

未成年者 アーヴィング・エドワード・トムソン・ジュニア(仮名)

主文

未成年者アーヴィング・エドワード・トムソン・ジュニアに対する相手方大林久子の親権の執行を停止する。

理由

本件申立の要旨は「申立人と相手方は昭和二六年頃○○県○○基地に於て事実上結婚して其間に昭和二七年六月○○日未成年者を儲け、爾来○○県○○基地及肩書住所地に同棲し、昭和三一年一一月○日正式結婚届出、昭和三二年一月○○日アメリカ領事館に対して未成年者の出生届出をなしこれにより未成年者は国外に於て米国人の親より出生した子として米国国籍を取得した者であるが、昭和三二年四月○○日申立人の不在中、相手方は未成年者を連れて、無断家出して其後申立人に対して、其の所在を知らせないのみならず未成年者を他人の許に隠し申立人に対して多額の金銭を要求し、容れられない場合は子供と一緒に自殺する旨申送つておるので親権の喪失を求める」と謂うにある、当裁判所は相手方につき事情を審問する事ができないので申立人を審問した上、「申立人に於て未成年者の所在を発見した場合は誰にも妨げられることなく自らの手許に未成年者を引取つた上、相手方も亦申立人の許に復帰して今後の未成年者の監護養育の問題並夫婦間の問題を話合う事が未成年者の利益の為に必要である」と認め家事審判規則第七四条に則り主文の通り審判をする。

(家事審判官 徳田基)

参考 事件の実情

一、申立人は米国籍を有する年令四十七才の男子で昭和二十五年十二月以降日本に居住し米空軍軍属として現在○○基地に勤務している。

二、申立人は昭和二十六年相手方大林弘(女)の二女である大林久子と○○県○○基地に於て知り合い以来同棲して事実上の夫婦生活を継続して来たが、同女は申立人の子を懐姙し昭和二十七年六月○○日○○県○○市○町三十六番地○○大学医学部附属病院に於てアーヴィング・エドワード・トムソン・ジュニアを分娩した。

三、その後申立人、右久子、その母、弘及び幼児アーヴィングは○○県○○基地を経て○○基地に移り、いずれも昭和三十一年八月○日頃より○○郡○○町大字○○八百四十七番地に住所を定め、申立人により扶養されて生活して来た。

四、申立人と右久子とは昭和三十一年九月○日○○市に於て正式に婚姻の届出をなし右婚姻は米国領事により認証され、その後昭和三十二年一月○○日申立人は右アーヴィング・エドワード・トムソン・ジュニアを嫡出子として出生届を米国領事になし、同領事により受理されたので右アーヴィングは米国市民としての資格を獲得し、適法に米軍軍属の家族としてその公用旅券に記載された。

五、以上の如く大林弘、大林久子及びアーヴィングは申立人の扶養を受けその住所である○○基地外米軍用住宅に居住していたのであるが昭和三十二年四月○○日夕方申立人がその勤務先より帰宅して見るや右住宅内の家財道具一切皆無となりアーヴィングを含めて大林久子、大林弘の姿も見えず、近郊日本通運支店等に問い合わせた結果、大林弘、同久子がアーヴィングを引つれ行方も分らず逃走した事実が判明した。

六、その後申立人は以前の勤務地である○○県、○○県に赴いて調査を継続し、且、○○県警察本部の応援を得て行方を調査した結果、次の如き事実が判明した。

七、右大林弘及び久子は申立人が近々帰国することを知り且申立人が右アーヴィングを愛すること甚しいことに乗じ、申立人より巨額の金員を支出せしめようと企て、右アーヴィングを拉致したのであり現在青森県乃至仙台市方面に私かに右チャールズを隠していること、相手方両名はいずれも「この子(アーヴィング)と自殺する」「この子にどんな仕打をしても構わない」等申している等の事実により、このままにして推移せんか、右アーヴィングの生命、身体は極めて危険である上に、この様な待遇を受けつつ生活を継続するに於ては右アーヴィングは満足な監護、教育を望むべくもない。

八、申立人は右アーヴィングに対する親権者は申立人と妻大林久子に外ならぬと思つていたところ、最近妻久子の戸籍謄本を見て右アーヴィングが日本名大林誠として大林弘の非嫡出子として右弘により出生届がなされているのを知つた。かかる届出は全く事実と相違する無効な届出と云うべく、申立人は別途親子関係不存在確認請求訴訟を提起し判決を得て右戸籍の訂正をなす予定であるが、取り敢えず大林弘及び大林久子をして親権の濫用乃至不行跡を中絶せしめる為、同女等より夫々親権を喪失せしめ申立人単独にて右職務執行を行う事を希求してこの申立に及んだ次第である。

九、申立人は既に日本滞在期間が満了して居り、近々帰国命令を受ける身分であるが、右アーヴィングは携帯家族として申立人と行動を共にすべき義務を負い、申立人帰米後は日本在留資格を有せず強制送還の対象となる状況にある。

更に申立人は右アーヴィングが唯一人の子であり帰米後は同児の監護教育に専念したいと念願するもので申立人は保証を立ててアーヴイグをして相手方等の親権より解放し、自らの手により又は他の信頼すべき機関又は個人により親権職務を代行せしめて頂きたくこの申立に及んだ次第であります。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例